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和歌山地方裁判所 昭和60年(行ウ)6号 判決

原告 小原楠一

右訴訟代理人弁護士 山口修

被告 和歌山税務署長 中野肇治

右指定代理人 矢野敬一

〈ほか六名〉

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五八年七月二〇日付で原告に対しなした、原告の昭和五七年分所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分は、いずれもこれを取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  本件各処分に至る経緯

(一) 原告は、昭和四九年ころから別紙物件目録一記載の物件(以下「甲土地建物」といい、建物のみを表示する場合は「甲建物」という。)及び別紙物件目録二記載の物件(以下「本件土地建物」といい、建物のみを表示する場合は「本件建物」という。)を所有し、原告及びその家族の居住の用に供していた。

(二) 原告は、甲土地建物に隣接する別紙物件目録三記載の物件(以下「乙土地建物」といい、建物のみを表示する場合は「乙建物」という。)が訴外高杉開発株式会社(以下「高杉開発」という。)から売りに出されたので本件土地建物との交換を申し出、右両土地建物の価格につき、本件土地建物を八八〇万円、乙土地建物を一〇三〇万円と評価した上で形式上それぞれの土地建物につき売買契約を締結する形で交換し、昭和五七年一一月二〇日、本件土地建物を高杉開発名義に、乙土地建物を原告名義にする所有権移転登記手続を経由した。

2  本件各処分

(一) 原告は、昭和五八年三月一日、被告に対し、本件土地建物の譲渡(以下「本件譲渡」という。)による譲渡所得の計算につき租税特別措置法(昭和五八年法律第一一号による改正前のもの、以下「措置法」という。)三五条一項の規定による特別控除の額を控除して別表1の確定申告をしたところ、被告は、同年七月二〇日付で本件譲渡は同条項所定の居住用財産の譲渡に当らないとして、別表2の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をした。

(二) 原告は、昭和五八年七月二一日、被告に対し、本件各処分を不服として異議申立をしたが、被告は、昭和五九年一月二五日付で右異議申立を棄却した。

(三) そこで原告は、同年二月一日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、右国税不服審判所長は、昭和六〇年六月一〇日付で右審査請求を棄却し、その裁決書謄本は同月一九日、原告に送達された。

3  本件各処分の違法性について

本件各処分は、措置法三五条一項及び同法施行令(以下「施行令」という。)二三条一項の解釈並びに適用を誤ったものであり、違法である。

4  よって、原告は、本件譲渡について措置法三五条一項の適用を認めなかった被告の本件各処分の取消しを求めるものである。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1(一)の事実は認める。同1(二)の事実のうえ、本件土地建物が八八〇万円乙土地建物が一〇三〇万円と評価されたことは不知。本件土地建物につき昭和五七年一一月二〇日高杉開発へ所有権移転の登記がされたことは否認し、その余の事実は認める。

2  同2(一)ないし同2(三)の各事実はいずれも認める。

3  同3の主張は争う。

三  抗弁及び被告の主張

1  被告は、原告の昭和五七年分の分離短期譲渡所得金額につき、①譲渡価額八八〇万円、②土地の取得価額五〇〇万円、③建物の取得価額七一万八五六〇円、④取得価額計五七一万八五六〇円、⑤譲渡費用一万円、⑥必要経費計五七二万八五六〇円、⑦差引金額三〇七万一四四〇円、⑧特別控除額零円、⑨分離短期譲渡所得金額三〇七万一四四〇円と計算した。

2  被告が右のとおり計算した根拠は以下のとおりである。

(一) 原告は、昭和四九年一〇月二三日、本件土地建物を訴外有限会社寿住宅(以下「寿住宅」という。)から代金五五〇万円で買い受けた。

(二) 原告は、右取得に伴い建物の改造費用四〇万円を支出した。

(三) 原告は、昭和五七年一〇月九日、高杉開発から乙土地建物を代金一〇三〇万円で買い受け、その下取り物件として本件土地建物を八八〇万円で高杉開発へ譲渡し、差金一五〇万円については、昭和五七年六月四日に七万円を、同年一〇月九日に一四三万円それぞれ支払った。

(四) 原告は、本件土地建物の譲渡費用(収入印紙代)一万円を支払った。

(五) 原告は、本件譲渡所得金額の計算に当り、本件土地の取得価額を五〇〇万円、本件建物の取得価額を五〇万円としているので、被告も右区分計算によったものであるところ、前記1③の建物の取得価額七一万八五六〇円は、本件建物の取得価額五〇万円と前記2(二)の改造費用四〇万円との合計額九〇万円から、寿住宅からの買受時である昭和四九年一〇月から本件譲渡時である昭和五七年一〇月までの期間の償却費の額の累積額一八万一四四〇円を控除した金額である。

(六) 本件譲渡による所得は、短期譲渡所得となり長期譲渡所得の課税の特別控除額はない。

3  本件土地建物の譲渡と措置法三五条一項の適用について

(一) 措置法三五条一項に規定する「居住用財産の譲渡所得の特別控除」の特例は、「個人が、その居住の用に供している家屋で政令で定めるものの譲渡若しくは当該家屋とともにするその敷地の用に供されている土地の譲渡をした場合」に適用されるところ、施行令二三条一項は、右の政令で定める家屋とは、「個人がその居住の用に供している家屋(当該家屋のうちにその居住の用以外の用に供している部分があるときは、その居住の用に供している部分に限る。)とし、その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限る」旨規定し、また、「その居住の用に供している家屋」とは、その者が生活の拠点として利用している家屋(一般的な利用を目的とする家屋を除く。)をいい、これに該当するかどうかは、その者及び配偶者等の日常生活の状況、その家屋への入居目的、その家屋の構造及び設備の状況その他の事情を総合勘案して判定する(租税特別措置法(所得税関係)通達三五―二)べきものと解される。

(二) 原告は、昭和四九年一〇月二三日、本件土地建物取得当時、甲土地建物を所有し、居住の用に供していたが、甲建物は木造瓦葺平屋建居宅一棟四戸のうちの一戸で、他とは全く独立した居住用家屋であり、一方、本件建物も木造瓦葺平屋建一棟で隣家とはブロック塀で仕切られ門扉を有する、他とは全く独立した居住用家屋であって、両建物はいずれも居間、寝室、玄関、台所、風呂及び便所等を有し、それぞれ単独で居住の用に供するに充分な機能を備え、また両建物間の距離は少なくとも五メートルは離れていて、それぞれの敷地も隣接しておらず、結局両建物はその構造・機能からみてそれぞれ独立個別の居住用家屋であるというべきであるから、原告は、施行令二三条一項にいう「居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に該当する。

(三) そして、以下の事実に照らせば、本件建物と甲建物のうち、「主として居住の用に供していると認められる一の家屋」は甲建物であって、本件建物がこれに該当しないことは明らかである。

(1) 両建物への居住状況

原告は、甲建物を食事等一家団らんの場として、また、夫婦の寝室として使用し、風呂は甲建物のものを使用しており、本件建物にも風呂・台所はあるがそれらは使用せず、子供達の食事・入浴は甲建物でなし、子供たちは入浴後パジャマ姿のまま甲建物と本件建物を往来していたが、一方、本件建物は、長男及び次女の個室として、あるいは寝室として使用していた。

(2) 住居登録の状況

原告を含む家族四名の住居登録は、甲建物の住居表示である「和歌山市西小二里一丁目四番二号」とされており、本件建物の住居表示である「和歌山市西小二里一丁目四番三号」とはなっていない。

(3) 原告が、国民健康保険の住所あるいは市民税申告の住所として和歌山市長に届け出ている場所も甲建物を表示する「和歌山市西小二里一丁目四番二号」となっている。

(四) 仮に、本件建物と甲建物とが一構えの家屋であるとしても、本件譲渡について、措置法三五条一項の適用はない。

すなわち、措置法三五条一項にいう家屋の譲渡とは一の家屋の全部の譲渡をいうものと解すべきことは明らかであり、ただ、二棟以上の建物から成る一構えの家屋の場合を含め、一の家屋の一部を譲渡した場合であっても、その譲渡した後に残った部分が機能的にみて独立した居住用の家屋と認められない場合には、当該家屋全部の譲渡とみるのが実情に合致することから、右のような一部の譲渡であっても、措置法三五条一項に規定する譲渡に該当するものと扱われている(租税特別措置法(所得税関係)通達三五―七)。

しかるに、甲建物は、本件譲渡当時、居間、寝室、玄関、台所、風呂及び便所等を備え、子供たちの食事、入浴は甲建物でしており、機能的にみて独立した居住用の家屋と認め得る状況であって、右状況は、本件建物を譲渡した後においても本質的には何ら変わるところはないのであるから、仮に、本件建物の譲渡が一構えの家屋の一部の譲渡であるとしても、措置法三五条一項の適用があるものとはいえない。

四  抗弁及び被告の主張に対する認否

1  抗弁及び被告の主張1の事実は認める。

2  同2(一)ないし同2(六)の各事実は認める。

3  同3(一)の主張は認め、同3(二)の事実のうち原告が昭和四九年一〇月二三日に甲土地建物を所有し居住の用に供していたこと、甲建物及び本件建物が物理上独立した居住用家屋であって、いずれも居間、寝室、玄関、台所、風呂及び便所等を有していること、両建物間の距離が約五メートルであることの各事実は認め、その余の事実及び主張は否認し争う。同3(三)の事実及び主張のうち、冒頭の主張は争い、同3(三)(1)ないし同3(三)(3)の各事実は認める。同3(四)の主張は争う。

五  原告の主張

1  措置法三五条一項の立法趣旨は、個人がその居住の用に供している家屋又はその敷地の用に供されている土地等を譲渡した場合には、居住用財産の処分は一般の資産の譲渡に比して特殊な事情にあり、担税力が弱いこと等を考慮して、その家屋又は土地等の譲渡所得について三〇〇〇万円の特別控除を認めることを定めたものであり、同条項は、居住用財産の譲渡の場合にはその担税力が弱いことを考慮し、新たな居住用資産を購入できるように保障する趣旨で立法されたものである。

2  措置法三五条一項の右立法趣旨を考慮に入れて施行令二三条一項の「その居住の用に供している家屋を二以上有する場合」という規定を解釈すれば、「家屋を二以上有する」かどうかは、家屋が物理的に二つ以上あるか否かという観点だけから決するわけにはいかない。物理的には二棟の建物でも、それらが、その規模、家族構成等を考慮した上で一世帯の居住に必要であり有機的に一体として使用されている場合は施行令二三条一項の適用に当っては「一の家屋」と認めるべきである。けだし、こう解さないのであれば、本件のように、本件土地建物を譲渡することによって必然的に新たな居住用家屋を購入しなければならないような事例であっても特別控除が認められず、担税力のないところに課税がなされる結果となってしまうからである。

3  そして、以下の事情を考慮すれば、甲建物と本件建物は「一の家屋」と認めるべきであって、原告は施行令二三条一項にいう「その居住の用に供している家屋を二以上有する場合」には該当しないと考えるべきである。すなわち、

(一) 原告は建具職人であり、その妻と共に甲建物に居住してきたが、甲建物の間取りは台所四畳、和室六畳、食堂兼居間兼寝室五畳、和室三畳で押入が一畳分しかないため、タンス等の家財道具で各部屋は埋まっている状態であったところ、昭和四九年当時には長女が一八歳、二女が一五歳、長男が一三歳と年頃で、それぞれ個室を必要としたものの、狭小な甲建物ではその部屋数が足りず、また夫婦のプライバシーも保てない状態で、原告はノイローゼ寸前であった。

(二) 本件建物には六畳、四・五畳、三畳の各和室があり、それらを子供たちの勉強部屋兼寝室としてそれぞれの個室を確保した結果、夫婦のプライバシーも保てるようになった。また、本件建物には風呂や台所もあったが、それらは使用せず、子供たちの食事や入浴は甲建物でなし、子供たちは入浴後パジャマ姿のまま甲建物と本件建物とを往来した。

(三) 以上のような状況のもとで、原告は、昭和五七年六月、甲建物の北に隣接した乙建物が前記高杉開発から売り出されたので、それを取得して一部壁を打ち抜けば原告とその家族にとって甲建物と乙建物とがより便利に利用できるものと考え、請求の原因1(二)記載の契約を高杉開発との間で締結したものであるところ、原告としては本件土地建物を譲渡するに際しては必ず本件建物に代わる乙建物を取得せざるを得ず、乙建物の取得がなければ本件建物の譲渡も最初からあり得ない事情にあった。

(四) 住宅建設五ヶ年計画で定める最低居住水準によれば、世帯人員四人の最低居住水準は①居住室面積が三二・五平方メートル、②住戸専用面積が五〇平方メートル、③住宅総面積が五九平方メートルであるところ、甲建物の①居住室面積は約二九・七平方メートル、②住戸専用面積は約三八・七五平方メートル、③住宅総面積は四五・七二平方メートルしかないのであるから、結局甲建物はその狭小さ故に、機能的にみて独立した居住用の家屋とは認められず、原告の家族状況や本件建物と甲建物の利用状況、機能的一体性、その接近性を考慮すれば、本件建物と甲建物とは一体として一の家屋と見るべきである。

(五) 右最低居住水準の内容を見ると、居住室については①寝室は夫婦の独立の寝室を確保すること、成人については個室を確保すること、寝室の規模は主寝室一〇平方メートル(六畳)副寝室七・五平方メートル(四・五畳)とすること、②食事室は食事のための場所を食事室兼台所として確保すること、食事室の規模は世帯人員に応じ、七・五平方メートル(四・五畳)又は一〇平方メートル(六畳)とすることとされているところ、甲建物はその内容面でも右基準にたりない。

(六) 右最低居住水準は、単に住宅政策の指針となるだけでなく、税務の面でも基準とすべきであるし、現になっている。

4  仮に前記解釈が認められないとしても、原告には所得を隠す意図はなく、所得は所得として表示し、ただ譲渡所得税の計算につき特別控除をしたにすぎず、前記事情に照らせば、原告にはそうするにつき正当な理由があるというべきであるから、本件過少申告加算税賦課決定処分は違法である。

六  原告の主張に対する認否

1  原告の主張1は認める。

2  同2のうち、物理的には二棟の建物であっても一構えの一の家屋と言い得る場合があることは認め、その余は争う。

3  同3の冒頭の主張は争う。同3(一)のうち原告が建具職人であり、その妻と共に甲建物に居住していたこと、昭和四九年当時長女が一八歳、二女が一五歳、長男が一三歳であったことの各事実は認め、その余の事実は知らず主張は争う。同3(二)のうち本件建物には風呂、台所があったこと、その風呂、台所は使用せず、原告の子供たちの食事、入浴は甲建物でなし、子供たちは入浴後パジャマ姿のまま甲建物と本件建物とを往来していたことは認め、その余の事実は知らず主張は争う。同3(三)のうち乙建物が高杉開発から売りに出されたこと、原告が、高杉開発に対して本件土地建物と乙土地建物との交換を申し出て手付金七万円を支払ったことは認め、その余の事実は知らず主張は争う。同3(四)ないし同3(六)の主張は争う。

4  同4の主張は争う。

七  被告の反論

1  住宅政策の一環として設けられている居住用財産の譲渡所得の特別控除の特例については、租税負担公平の原則から、その不公平が拡大しないよう一定の要件を付してその要件を限定する必要があるところ、措置法三五条一項は、その特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、これを受けて施行令二三条一項は「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合には、これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限るものとする。」との制限を付して、右特例条項の施行による不公平が拡大しないよう担保しているのである。

2  原告は、物理的に家屋が二つある場合でもそれらが近接しており、家屋構成を考慮すれば、二つの家屋を合わせても適当な広さ(一世帯の住居に必要)であり、一体として居住の用に供されているときは、「一の家屋」と見るべきであると主張するが、前述した施行令二三条一項の立法趣旨を考慮し、また、一般に租税法規における非課税要件規定は、例外規定としての地位にあり、それは課税要件規定とは異なる政策的配慮から定立され、租税負担公平の原則に相反する効果があるので、その解釈に当っては、狭義性、厳格性が要請されることを考え合わせると、「一つの家屋を有する場合」を、原告の右主張のごとく広く解釈することは許されないといわなければならない。

八  被告の反論に対する認否

全て争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  請求の原因1(一)及び同1(二)の事実のうち、原告が昭和四九年ころから甲土地建物及び本件土地建物を所有して原告及びその家族の居住の用に供していたこと、甲土地建物に隣接する乙土地建物が訴外高杉開発から売りに出された際、原告が本件土地建物と乙土地建物との交換を高杉開発に申し出たこと、その結果本件土地建物と乙土地建物につき形式上それぞれの売買契約を締結する形で右各土地建物の譲渡がなされたことの各事実並びに同2(一)ないし同2(三)の各事実については当事者間に争いがない。

二  措置法三五条一項の適用の有無について

1  原告は、本件土地建物の譲渡は措置法三五条一項に規定する居住用財産の譲渡に当たるから、被告がその譲渡所得金額の計算に当たり所定の特別控除を認めるべきであったのにこれを認めなかったのは措置法三五条一項、施行令二三条一項の解釈並びに適用を誤ったもので違法である旨主張するので、以下検討する。

2(一)  当事者間に争いのない事実及び《証拠省略》によれば、原告は建具職人であり、その妻及び子供三人の合計五人で甲建物に居住していたこと、甲建物の床面積は四五・七二平方メートルでその間取りは台所四畳、和室六畳、食堂兼居間兼寝室五畳、和室三畳であったが、子供らの成長に伴い家族五人が居住するには甲建物は手狭になってきたこと、そのため原告は、昭和四九年一〇月二三日、甲建物から約五メートル離れたところにある本件土地建物を寿住宅から代金五五〇万円で買い受けたこと、当時原告の長女が一八歳、二女が一五歳、長男一三歳であったこと、以来本件建物は子供たちの勉強部屋兼寝室として甲建物と共に原告及びその家族の居住用家屋として使用されてきたことの各事実が認められ、右各事実及び本件土地建物の譲渡に関する前記当事者間に争いのない事実によれば、本件建物が措置法三五条一項の「居住の用に供している家屋」に該当することは明らかである。

(二)  次に、原告が甲建物と本件建物を所有することが、施行令二三条一項にいう「その者がその居住の用に供している家屋を二以上有する場合」に該当するか否か検討するに、当事者間に争いのない事実、《証拠省略》によれば、甲建物は木造瓦葺平家建居宅一棟四戸のうちの一戸で床面積が四五・七二平方メートルの他とは独立した居住用家屋であり、本件建物も木造瓦葺平屋建一棟で隣家とはブロック塀で仕切られ門扉を有する床面積三九・一二平方メートルの他とは独立した居住用家屋であること、両建物はいずれも居間、寝室、玄関、台所、風呂及び便所等を有していること、両建物間の距離は少くとも五メートルは離れていること、両建物の敷地は隣接しておらず、両建物の間には公道に通じる幅約七〇センチメートルの通路及び第三者の居宅が存することの各事実が認められるところ、これら両建物の規模、構造、間取り、設備、両建物間の距離及び両建物の規模、構造等から通常考えられる用法・機能等を総合考慮すれば、たとえ生計を一つにする原告及びその家族が前記認定の入居目的で両建物を併せ居住の用に供していたとしても、両建物はその構造機能からみてそれぞれ別個の独立した居住用家屋であると認めるのが相当であるから、原告は施行令二三条一項にいう「その者がその居住の用に供している家屋を二以上する場合」に該当する。

(三)  更に、措置法三五条一項に規定する政令で定める家屋につき施行令二三条一項は、前記(二)の要件に該当する場合には「これらの家屋のうち、その者が主としてその居住の用に供していると認められる一の家屋に限る」旨定めるので、甲建物と本件建物のいずれが同条項に定める「主として居住の用に供している」家屋に当るか検討するに、当事者間に争いのない両建物への居住状況、住民登録の状況、国民健康保険等の住所の届出の状況に関する被告の主張3(三)(1)ないし(3)の各事実並びに《証拠省略》を総合すれば、原告及びその家族は主として甲建物を拠点として日常生活を営んでいたものと認められるのであって、本件建物はもっぱら子供たちの勉強部屋兼寝室として使用していたにすぎないことが窺えるから、結局原告が「主としてその居住の用に供している」家屋は、甲建物であると認めるのが相当であって、本件建物はこれに該当しないものと言わざるを得ない。

(四)  従って、本件土地建物の譲渡については措置法三五条一項が適用される余地はない。

(五)  もっとも、この点に関し、原告は、前記原告の主張記載の理由により、物理的には二棟の建物でも、それらが、その規模、家族構成等を考慮した上で一所帯の住居に必要であり有機的に一体として使用されている場合は、施行令二三条一項の適用に当っては「一の家屋」と認めるべきで、また、それらが近接しており、家族構成を考慮すれば、二つの家屋を合わせても適当な広さ(一所帯の住居に必要な広さ)であり、一体として居住の用に供されているときは、「一の家屋」と見るべきであると主張し、本件譲渡の場合にも措置法三五条一項を拡張解釈して譲渡所得金額の特別控除を認めるべきである旨主張するが、措置法三五条一項は、居住用財産の譲渡の場合にはその担税力が弱いことを考慮し、住宅政策の一環として三〇〇〇万円の特別控除を認めることによって、新たな居住用資産を購入できるように保障する趣旨で立法された特則・例外規定であるところ、同条項は、租税負担公平の原則から、その不公平が拡大しないように特例の適用を政令で定めるものの譲渡に限定し、施行令二三条一項はこれを受けて前記制限を付することで右特例条項の施行による不公平の拡大を防止しているのであって、この措置法三五条一項、施行令二三条一項の立法の趣旨、目的に照らし、また、非課税要件規定たる同条項の解釈に当っては、狭義性、厳格性が要請されるべきことをも考え合わせると、同条項の解釈適用は厳格にされなければならず安易な拡張解釈は許されないというべきであるから、原告の前記主張はとうてい採用することができない。

三  本件各処分の適法性

1  抗弁及び被告の主張1及び同2(一)ないし同2(六)の各事実については当事者間に争いがなく、従って、本件各処分のうち、本件譲渡所得金額の計算につき、措置法三五条一項、施行令二三条一項の適用を否認して原告の分離短期譲渡所得金額を三〇七万一四四〇円の範囲内である二九二万四四四〇円とした本件更正処分は適法である。

2  原告は、本件更正処分所定の所得申告をしなかったことについて国税通則法六五条二項に定める「正当な理由」がある旨主張するので検討するに、原告は前記原告主張の見解に基づき本件更正処分所定の所得申告をしなかったものであるところ、右は単に措置法三五条一項、施行令二三条一項の解釈適用を誤った結果にすぎないことは明らかであり、このように過少申告が納税義務者の法律の誤解に基づく場合には、それのみで過少申告についての正当な理由とすることはできないから、この点に関する原告の右主張は理由がない。また、原告は、他に国税通則法六五条二項所定の「正当な理由」についての主張立証をしないから、結局本件過少申告加算税賦課決定処分も適法である。

四  よって、本件各処分は適法であり、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをそれぞれ棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 亀岡幹雄 裁判官 將積良子 下山芳晴)

〈以下省略〉

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